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ブラッシュアップ不足バージョン

狂都 プロローグ

 プロローグ

 白粉の下にある少女の純白が透けて見えて、中村は悦に入った。少女の小さな足を包む足袋が畳を擦るたびに清潔な素足を想像し、少女の小さな手が空を漂うたびに仄かな恋を夢想する。だらりの帯が暖色の明かりに映えて、その照り返しは、小窓から覗く満月よりも艶めかしかった。
 芸妓が、中村の隣に両膝をついた。その流れで酌を受け、口にした酒は舌に温かく纏わりついた。中村は、少女だけを見ていた。
 名を尋ねられ、少女は名を答え、花名刺を中村に手渡した。
 中村は、自らを経営者と称し、名刺は持ち歩かない主義なのだと言った。
 少女は幼く微笑んだ。
 趣向を凝らした料理もお座敷遊びも、中村には無意味だった。少女の存在だけが、中村の望みだった。
 まだ浅い夜に、邂逅は一時の別れを迎えた。
 淡い酔いを引きずって、古民家の慎ましい明かりを見やりながら、中村は家路を歩いた。盆地らしい乾いた微風が中村の背中をそっと押した。どこからか飛んできた小さな紅葉が中村を追い越し、暗がりに消えた。
 少女の顔を、声を、仕草を反芻する。少女は、中村が思い描いていたよりもずっと美しかった。
 中村が少女のことを知ったのは二年前だった。まだ中学生だった少女のツイッターを、中村は目にしたのだ。少女は、中村が二十年以上前に卒業した公立の中学校に通っていた。希薄なつながりを頼りにして、中村は少女に執着した。少女は芸妓になりたいという自分の夢をツイッターに記していた。その夢が実現に近付いたこと、中学校卒業後に地元の置屋に入ることも、記されていた。どこの置屋に入るのか、その詳細は伏せられていた。少女のツイッターは、桜の花びらを肩に乗っけて友人たちと満面の笑顔を浮かべる写真を最後に、更新が途絶えた。そのアカウントは、少女の中学校卒業から一か月後に削除された。中村が芸舞妓を呼べる料亭に通い始めたのは、少女の中学校卒業から一年後のことだった。
 少女と巡り合える奇跡を望むような若い心の働きを、中村は有していなかった。中村は唯、自堕落ともいえる儚い感情に心身を沈めただけだった。その心身が今夜、引き上げられた。少女のいる世界は、煌めくように眩しかった。
 中村は小さな公園のそばまで歩いてきた。寂れた遊具が鎮座するその公園の隣に中村の自宅はあった。二階建ての一軒家だった。
 中村の帰りを待っていたのは、年老いた母親だった。母親は、二階へ上がる息子の後姿に目を止めて、それから、床に就いた。
 築三十年を超える木造家屋は、階段を踏みしめるたびに、軋んだ。
 男の臭気の染みついた自室が、浴び慣れた人口の光に照らされて煤けた壁や床を露にした。立派なスーツから粗末なジャージに着替えた中村は、パソコンを起動し、眠りとは無縁の夜を過ごす。記憶に残る生身の少女だけが、彼の孤独を癒した。